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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
隆が残業の夜は、陽音の継子への無関心が浮き彫りになった。献立が並ぶのは陽音の席だけで、彼女はリビングに顔を出した彩月に気付くと、いつか作り置きして凍らせていた惣菜を半解凍して突き出した。
雑巾水や便器の匂いが鼻を掠めた時は、あらゆる理由をこじつけて、彩月は食事を辞退した。すると若く愛らしい継母は発作を起こして、手当たり次第に花瓶や額縁を娘に投げた。
椅子が派手に転倒して、陶器が割れて、水が彩月を頭から濡らす。けたたましく響き合う音に胸を押さえて、彩月は数ヶ所の打撲を庇いながら、陽音を宥めた。
ごめんなさい。お母さんと仲良くしたいのに、嫌われることばかりして、ごめんなさい。
顔めがけて飛んでくる足に縋って、繰り返した言葉の数々。それらは彩月の本心だった。
いつかは陽音も、血の繋がらない娘に愛着を持つ。隆のいない夜でも母娘らしく過ごせる時が来る。
根拠もなく確信して、荒れた部屋を夜中までかかって元に戻して、明け方に帰宅した父親に、皿を割ってしまったと言って謝罪した。
そうしたことは茶飯事だったが、ある冬の夜、浴槽が水風呂だったため、シャワーだけを浴びて出ると、脱衣室に畳んでいた着替えが消えていた。
その日も隆が夜勤だったのが幸いだった。
やむなくバスタオルだけを巻いて部屋に戻ることに決めた時、扉が開いた。