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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
ある時、隆が急に帰宅した。
たまには家族を驚かせるべく急いで仕事を切り上げてきた一家のあるじは、ケーキの箱を手に提げていた。
その笑顔は、一瞬で、引きつった。
幼少期の浴室以来に見る娘の裸体が、庭先にうつ伏せていた。その背に跨って、尻や太ももに蝋燭を垂らしながら猥雑な言葉を吐く陽音は、きっと彼の知らない妻の一面だった。
陽音の癇癪の痕跡が、見て分かる場所に残ったことはなかった。従って隆が彩月の日常では考え難い打撲痕や裂傷を見たのはそれが初めてで、しばらく天井を仰いで何か叫んでいた。我に返ってからの隆の行動は、父親として非の打ちどころがなかった。
聞き飽きるほどの隆の謝罪と、それまで以上の過保護振りに食傷しながら、陽音が出ていったあとは、拍子抜けするほど穏やかな日々が続いた。彩月は中学を卒業して、それから三年は瞬く間だった。
不幸になれ。私と同じ、不幸になれ。
自我も芽生えていない時分から、彩月は陽音のそうした言葉を注がれて育った。
あの継母は、隆に出逢うより少し前、不注意で身籠ったのだという。相手の男が子供を産み育てたがったために、十九歳だった彼女は、将来の夢や希望を全て断念することになった。飲み屋で泣いていたところ、隣の席で飲んでいたのが隆だったと、あとに聞いた。