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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人





 あさひが憎い。泣き叫んだほどの苦痛を十年近くに亘って彩月に与えた陽音以上に、愛してくれてもいない祖母に、途方もない信頼を寄せている。自身の境遇に疑問も持たない彼女の姿が、彩月に言いようのない嫌悪感を与える。


 だから気づかせようとした。


 愛されてもいないくせに。不幸なくせに。


 しかしあさひは、彩月のキスには顔を赤らめるのに、信頼の対象は育江なのだ。



 シーツに押しつけたあさひに覆い被さって、彩月は世にも美しい人形の顔を見下ろしていた。

 あさひが自分に好意を寄せていることに、気づいていた。育江の歪んだ教育が本人にそれを自覚させていないだけで、彼女は彩月に、どうしようもない感情を持て余している。


 陽音が自分にしたようなことをしても、あさひは今と同じ目を、彩月に向け続けるのか。…………



「逃げるチャンスだったのに」


「私は、今で、満足しています」



 あさひが逃げても構わなかった。

 佳子が彩月の過失に罰を与えるとすれば、解雇くらいだ。家政婦一人のクビが、一人の女が半永久的な性的搾取を免れるための代償なら、甚だ安い。


 だが今になって、あさひが逃げなくて良かったと思う。


 彩月にとって、佳子はようやく得られた愛だ。彼女の元にいれば、狂おしいまでに焦がれたものを、今度こそ得られる。ペット一匹をペットとして扱うだけで、彩月は彼女を失わないで済む。



「あさひの初めて、小松原さん、あたしにくれるんだって」



 昨日、あさひに出発の支度をさせていた時、彩月は佳子の呼び出しを受けた。朝から何の用かと思えば、そういうことだ。

 さんざんもったいぶった末に、佳子はあまりに呆気なく、破格のペットの破瓜を決めた。
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