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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
かつて隆は、大恋愛を経験した。
最初で最後の恋だった。そう酔った勢いで惚気るくらいだったために、あの陽音も疑心暗鬼に陥ったのだが、それだけ小松原湖都(こまつばらこと)という名の女に彼の向ける愛情は、平凡ではなかったのだろう。
湖都の実家は財閥で、いくつもの名の知れた企業の代表取締役と縁があった。隆が彼女に出逢った時も、彼女には然るべき見合いが定められていたという。
だが、隆は後輩である彼女の素性を知らずに告白した。彼女も周囲と態度を変えない男に、のめり込んだ。彩月に真偽は確かめられないが、当時、大学生だった隆は学内でも人気があって、彼は彼で、媚びた態度をとらない湖都との時間が心地好かったらしい。
必ず出世して起業する。そう言って、隆は卒業後、湖都の両親達に何度も頭を下げに行った。しかし小松原の本家は彼を冷たくあしらって、結果的に湖都の見合いを早めた。
そこで二人がとったのが、駆け落ちだ。
交際期間は三年、結婚生活は二年、隆にとって、それはきららかな日々だった。
彩月の名付け親は彼女だ。湖に、月。美しい絵画のようだろうと微笑みながら、物心つかない娘を抱き締めていたという。
しかしある時、小松原は湖都の居場所を突き止めた。隆に告訴や社会的排除を示唆したために、最後は湖都自身が良人と娘を慮って、実家に戻った。