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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
貫けなかった愛なのか。産みの母は、本当に、連れ戻されなければいけなかったのか。
小松原の力がどれほどのものか、彩月には分からない。湖都を責めるのも違うと思った。
少なくとも彼女を振り返る時の隆の顔は、幸福そのものだ。人間に与えられた幸福の容量があるとすれば、五年間に、きっと彼は使いきったのだ。
家政婦の面接で、彩月は小松原湖都の名前を出した。そして隆が大量に残していた中から一枚抜き取ってきた写真を見せると、館のあるじの穏やかな顔が、一瞬、ぞっとする冷酷さを帯びた。
…──この娘が、道ならぬ恋で風当たりの冷たかったことがあるのは、聞いています。
佳子と湖都の母親は、父親が同じの姉妹だった。
つまり彩月の母親は、佳子の姪だ。
…──私は小松原の苗字を名乗っているだけで、あの家とは無関係なんです。特に良人が亡くなってから、私は完全に用のない人間になったものですから。
佳子は、まるで小松原の実家のみならず、世界の全てを拒んでいる風でもあった。
彼女はいわゆる愛人の娘で、それなりに不自由なく成人したものの、そのあとは会社同士の関係を結ぶための手駒になった。配偶者が他界してからは、その所有地と遺産を相続して、父親を含む親族達とはほぼ絶縁状態だという。
佳子は彩月を採用した。
同じ小松原の被害者同士、仲良くしましょう。
ありったけの皮肉を込めて、契約書を机に置いた彼女の顔に、慄いた。彩月は、彼女にこの上ない悲しい美を見出したのだ。