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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
目のやり場を困らせる佳子にジャケットを被せて、彩月は彼女の傍らに膝をついたまま、その手の甲に唇を寄せた。
「……彩月は、きっと私より優れた血統なの。あの女の娘のくせに私の側にいてくれるなんて、物好きだわ」
彩月の本心など明らかなのに、佳子はこうして顔を伏せる。
「昔のことは、終わりました」
「…………」
「小松原さんは、誰にも見下されない。虐げることなんて出来ない。貴女は強くて、絶対的な存在の人です」
「私には何もない。幸せになる権利も、望まれて生きたこともない。こんな価値の薄い人間に、貴女も美影達も、随分と騙されてくれているわね」
「もし騙されているとしたら、皆、それを望んでいるんです。小松原さんがここにいる。他に必要な事実がありますか」
佳子の自己評価の低さは、彼女のうわべしか知らない人間からすれば、きっと嫌味ととれるだろう。
彩月は彼女のあらゆる謙遜を否定して、彼女の欠落した部分を埋める。
気休めだ。
彩月が女達と身体を重ねなければいられないのと同様、佳子は他者を傅かさなければいけない。家政婦達の誠意を受けて、時に性的な業務をさせることで、彼女は自身の権威を確認して、自由を噛み締めている。
甚だ不健全だった高給業務の実態を知っても、彩月が退職を決めなかったのは、ここにいる限りセックスの相手に不足しないからだ。
快楽と、佳子の愛を貪っている限りは、生きていられる。必要とされる実感。たとえ動機が欲望でも、そこに憎しみはない。
第5章 禁じられた二人──完──