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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
化粧を落とした亜子の額や目の下は、裂傷や内出血が散在していた。
外出時は舞台化粧向けの下地で隠しているという彼女は、それから上着も脱いでみせた。すらりとしていながら筋肉質な肉体は、やはり佳子の媚びた凹凸の目立つ身体より、健康的だ。そのせっかくの肉体は、顔以上に凄惨だった。
晴れて亜子を雇った佳子は、なるべく割りが良く肉体面の負担の少ない仕事を彼女に回した。生来、甘えたがりな女に好かれる顔立ちの亜子は、彼女自身が身体を張らなくても客達は熱心に金を落とす。
怪我の方は、そうした類を見慣れている例の医者に診察させた。自己流で応急処置を繰り返していた頃に比べて、今では見違えるようになったらしい。
三月中旬、佳子が書斎の窓から薄紅色の蕾をつけた庭の木々を眺めていると、書斎の扉がノックされた。
入室を促すと、そこにいたのは、まさに今しがたまで頭にいた人物だ。
「失礼します。昼食の用意が出来ました」
「有り難う、行くわ」
佳子は手つかずだった書面を軽く整えて、腰を上げた。
仕事と言っても、経理や家政婦達のスケジュール整理、親交のある女達とのメールや文書のやりとりがほとんどだ。何も知らなかった頃、無知で無垢だった少女の頃、思い描いていたような手ごたえのある仕事とは無縁だ。
「柳さん」
亜子が退室の足を止めて、佳子に顔を振り向けた。
「お嬢さんは、変わりない?」
「はい、お陰様で……」
「貴女も?」
「──……」
分かりやすい女だ、と思う。
第一印象とはまるで違って、亜子の方が佳子より弱く不器用だ。