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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
後部座席を降りてきたのは、小松原の当主を名乗る男だ。
しどけなく脚や肩を出していた女達は一斉に衣服を整えて、間に合わなかった数人は、いそいそと木陰に身を潜めた。
あさひは、間髪入れずエプロンスカートが胸から下を覆った。彩月が椅子を離れなければ、具合の悪いことにはなるまい。
僅かに顔を強ばらせて、佳子は一度深呼吸すると、小松原氏に向き直った。
「アポもなしに、我が家へようこそ。お父さん」
「お前のような娘を持った覚えはないのだが」
「どういったご用件でしょうか」
あさひがこれまで耳にしてきた話を要約すれば、あの紳士こそ佳子の父親だ。
思い描く父娘像とは、かけ離れている。
佳子には姉もいて、その姉も最近、マスコミの質問に一人っ子だと答えたと聞く。さっきまで羽を伸ばしていた客達も、彼女らに奉仕していた家政婦達も、おりふし黒目だけ父娘の方へ向けて、蛇に睨まれた蛙のように縮こまっている。
肩をすぼめる女達を見回すと、小松原氏の表情が険しさを増した。
「出来損ないの未亡人が」
「何ですって」
「恥とは思わないのか」
「相続したものはしっかり管理していますし、私が顔を出さないのは、貴方がたが望んだからでしょう」
「ああ、そうだ。お前が小松原を名乗っているだけで空恐ろしいのに、わしらの邸宅の敷居など跨いでみろ、出るところに出るぞ」
「ご安心下さい。私は余生を静かに送っているだけです。今更、貴方をお父さんだなんてお呼びするつもりもありません。そういうお話でしたら、お引き取り下さい」
「まだ話は終わっていない」
いくら佳子がしらばくれて、女達が無邪気を装っても、顔や手に数多の皺を刻んだ男は、たるんだ瞼の奥の濁った目に、全て見通していると言わんばかりだ。