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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
「正気の沙汰とは思えん。佳子。お前のご主人がご健在だった頃は、もう少しまともだったじゃないか」
「あの頃の私こそ、どうかしていたわ」
「全く情けない。使用人達には賠償金を支払って、決して口外しないよう誓約させろ。頼むから一族の名前に泥を塗らないでくれ」
貴方の指図は受けない、と、佳子が低く呟いた。
かつて小松原に従って、好きでもない男と婚姻した。会社同士の功利のために、配偶者が息を引き取るまでの約三十年間、心に蓋を閉めて過ごした。
もう十分に従ってきた、そう振り返る佳子は、亡き配偶者との間に子供は授からなかったらしい。小松原の一族も、彼女の良人の親族らも、彼女一人を糾弾した。本意の結婚ではなかったにしろ、佳子は産婦人科に通っていた。しかし良人の方が検査も通院も拒んだため、不妊の原因は突き止められなかった。
「あれはお前の怠惰だ。子供は女が産むものだからな。ただでさえ小松原の不要分子が、お前には結婚して働き手を産むくらいしか務まらなかったというのに、女としてさえ出来損ないだったせいで、わしにまで恥をかかせおって……!」
熱り立つ父親を静かに見つめて、佳子は黙り込んでいた。
周囲の女達は俯いて、目配せしたり、小声で囁き合ったりしている。
「目に余るわ」
「仏野さん」
姫猫が踵を返しかけると、彩月が彼女の行く手を制した。
彩月が姫猫と場所を代わって、佳子の隣に進み出ていく。