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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
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裂傷の縫合跡や、幾度となく瘡蓋を生んで厚くなった皮膚を見る度、途方もない絶望が佳子を襲う。
思春期を共有した学友達が各自の道を進んでいった中、卒業式を終えた佳子は、約二ヵ月、結婚の準備に勤しんだ。
毎月振り込まれる生活費を持て余していた母親の習い事に付いて行ったこともあって、幼い頃から、佳子は料理や生け花に親しんでいた。そうした経験が活きて、花嫁修行は卒なくこなした一方で、挨拶回りだのドレス選びだの、当時の次期当主だった父親を始めとする大人達の機嫌をとることに、佳子は労力を費やした。
友人達は、申し分ない富を有する男と佳子のジューンブライドに、淡い夢さえいだいていた。それでなくても夢や就職に向けて広い世間に歩み出したばかりの彼女らの目に、佳子に敷かれたあまりに安定したレールは、華やかに映ったらしかった。
名の知れた会社のトップの奥方になった佳子は、それまでの桎梏を解き放たれた。
表に出ることを許されて、良人の苗字を名乗っていれば、社交界にも出入り出来た。結婚して、一、二年と経たない内に、学生時分の友人達とはほとんど疎遠になった佳子にとって、それは寂しさを紛らわせるのに都合良かった。
しかし佳子に与えられた自由は、世間のイメージとかけ離れていただろう。
良人が就業している間は、確かに人間らしい時間を得た。しかし働き盛りの彼が家庭にひとたび戻れば、佳子はただの人形だった。