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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
* * * * * * *
夏が盛りを迎えた。
八月に入ってすぐ、あさひに帰省の許可が下りた。佳子の館を出た足で、志乃ら叔母夫婦と落ち合うと、予てから彼女らを魅せていた温泉地へ旅立った。
叔父の車に育江の姿はなかった。
別荘の所有者は彼女でも、相変わらず娘達に淡白な祖母は、今回の旅行を辞退したのだという。それを聞くや、彩月をとりまいていた空気が角を落とした。
ひと悶着あったにしても、佳子に言いくるめられるようにして今回もあさひの目付け役になった彼女は、行きがけの車内でも現地での海でも温泉でも、志乃とは親しみ合っている。
海近くと高原。
佳子が購入した二つの別荘の内、あさひ達が訪れたのは前者だ。
海岸では多くの客が思い思いに過ごしており、浴場も昼間から混雑していた。それら志乃が楽しみにしていた以外にも、海水浴場を離れた岩場で貝拾いやバーベキューをしたり、湯壺に卵を浸からせたり、山沿いのドライブで鮮やかな夏の景色を楽しんだりした。
作りたての温泉卵は、あさひが思い描いていたのとは違った。叔父によると、温泉地によって味の変化があるという。固まり損ねたゆで卵にも感じるそれは、独特の匂いに優しい懐かしさを覚える。