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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
志乃の話すところによると、育江は昔、客との間に二人の子供を身籠った。それがあさひの母親と志乃だ。
おそらく育江は、商売から足を洗ったあと世話させる人間を用意しておくために、父親不明の姉妹を産み育てた。
志乃は勉学が好きで体格も良く、成績は学年トップを維持していた。教師からの期待も厚く、大学に進んでも奨学金は返済不要だろうと、太鼓判まで押されていた。
つまり育江は、手に追えない次女の教育を諦めて、容姿端麗で素直だけが取り柄だった長女を言いなりにしようとしたのだ。陽音の夕飯だけ量を減らしたり、異性のクラスメイトと電話していたくらいで氷水を張った湯船に入れて殴打したり、志乃から見ても可愛い程度の口答えをしただけで、育江は彼女を夜通し柱に縛りつけたりしていた。
「だからと言って、私に親らしかったこともないよ。放任されていただけ」
「陽音さんと同じ目に、あさひも遭っている……と?」
「それで隆さんが心配して、しょっちゅう彩月ちゃんをあさひちゃんに付き添わせていらっしゃるんじゃない?お姉ちゃんも、見える傷は残らなかったから。金持ちに輿入れ出来なくなったら大変だって、殴る時もお母さんそこは考えてた」
あさひら父娘と暮らしていたとしても、陽音は同じことをしていただろう。そう言い加えた志乃が、持ち前の善良な目を彩月に向けた。お姉ちゃんがごめんね、とも言い添えて。