この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
父を見ていると、育江が正しいように思う。
志乃達を見ていると、もっと他の可能性があるように思う。
あさひが叔母達の元に生まれ育っていたなら、例えば十何年も変わらず睦まやかな両親こそ、愛の前途と見なしただろうか。
「今更、……」
彩月がシーツを引き寄せながら、呟いた。
神秘的な音色の、それでいて温度を孕んだ声に、あさひは何を期待したのか。
「もしも、なんてない。お前が失くしたものも得たものも元通りにはならないし、後悔してるなら、虫が良すぎるんじゃないか」
突き放した物言いに、あさひは頷く他になす術がない。
育江があさひに示したのは、彼女の歩んだ一つの道に基づいた、女としての幸福だ。
しかしあさひは、今も変わらず彩月が好きだ。
彼女に執着したからこそ、育江の教えに従って、囚われ続けることを望んだ。彼女の側にいられさえすれば、不特定多数の相手との性交に伴うリスクも、些細だった。
「おばあちゃんの言うことを聞いて、ダメだったことなんかありません」
育江の教育を受けていなければ、今のあさひはいなかった。きっと彩月に出逢える可能性もなかったし、どこかで顔を合わせていても、今ほどの関係ではなかったはずだ。
そんな、もしもはいらない。