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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女


 父を見ていると、育江が正しいように思う。

 志乃達を見ていると、もっと他の可能性があるように思う。

 あさひが叔母達の元に生まれ育っていたなら、例えば十何年も変わらず睦まやかな両親こそ、愛の前途と見なしただろうか。


「今更、……」


 彩月がシーツを引き寄せながら、呟いた。

 神秘的な音色の、それでいて温度を孕んだ声に、あさひは何を期待したのか。


「もしも、なんてない。お前が失くしたものも得たものも元通りにはならないし、後悔してるなら、虫が良すぎるんじゃないか」


 突き放した物言いに、あさひは頷く他になす術がない。

 育江があさひに示したのは、彼女の歩んだ一つの道に基づいた、女としての幸福だ。


 しかしあさひは、今も変わらず彩月が好きだ。

 彼女に執着したからこそ、育江の教えに従って、囚われ続けることを望んだ。彼女の側にいられさえすれば、不特定多数の相手との性交に伴うリスクも、些細だった。


「おばあちゃんの言うことを聞いて、ダメだったことなんかありません」


 育江の教育を受けていなければ、今のあさひはいなかった。きっと彩月に出逢える可能性もなかったし、どこかで顔を合わせていても、今ほどの関係ではなかったはずだ。

 そんな、もしもはいらない。
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