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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
女達に催促された佳子の呼んだ医師があさひに下した診断は、五月と同じだ。
相変わらず世俗の常識やら偏見やらをものともしない老いた男は、もう決まり文句を口にしなかった。祝ったところで、この館における妊娠は、腹に異物が紛れ込んだのと同じだからだ。
ただし、あさひは出産を希望した。
姫猫の屋敷で、彼らが堕胎を非難したのは、確かに面白半分だった。世間のものさしであさひを罪人扱いすることで、彼らは加虐心を奮わせていた。
そうした彼らの諧謔が、結果、あさひの胸の奥深くに牙を立てた。
胎児になるはずだったものを処理したのは、事実だ。人殺し、罪を贖え、という遊の怒声があさひの深層に食らいついて、侵食していく。祖母は、かつて父親の分からない姉妹を産んだ。彼女に従ってきたあさひも当然、彼女を模倣すべきではないか。
医師が診療所に電話をかけている間、あさひは佳子に抗議した。
女の意見は、はしたない。それも育江の教えだが、出産も彼女のかつての選択だ。