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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
* * * * * * *
一世一代の抵抗の末、あさひはマウスボールを噛まされて、拘束具を装着しての診療所送りになった。
町外れの産婦人科では、半年振りの看護師達が、あさひを手厚く扱った。
検査の間、彼女達は親身な言葉を絶やさず、手術直前は、妹や娘にでも対する風に慰めた。無事、子宮をがらんどうにしたあさひが病室に戻されると、やはり代わる代わる訪ねてきて、我が身のように同情的な言葉をかけた。
ただし彼女らの誰一人、あさひの拘束は外さなかった。そのため、退院の日に美影の迎えが見えた頃には、ずっと後ろ手に封じられていた手首は鬱血して、食事以外は常に装着していたマウスボールを外されても、しばらく声がつっかえていた。
「ちゃんと眠れた?」
「はい、……」
「お腹空いてない?」
「はい」
帰路で美影に答えながら、あさひは病院での束の間を振り返る。
心が空っぽだ。腹の異物を取り除いただけなのに、思考するために必要なものまで削り取られたのではないかと疑う。たった四日間の出来事も、まともに思い出すことが出来ない。ほとんど眠っていたからでもある。返事はしなくて構わないからと、あさひが退屈しないよう、看護師達が気を遣って聞かせてくれていた世間話も、何一つ記憶に残らなかった。
「小松原さんを、許してあげて」
「…………」
「無理、か」
「……いいえ、私は、……私が悪いんです」
「あさひちゃんも悪くないよ。もし自由になりたければ、あのおばあさんに借金させて、クーリングオフも出来る。小松原さんに話してみようか?」
「おばあちゃんに、迷惑は、かけられません」