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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
あさひの二度目の妊娠が発覚した夕方、彩月は庭園の森近くに佳子を見つけた。
爽籟を覆った憂鬱な朱色を睚眥していた彼女は、かつて良人と呼んだ男に怨恨でも飛ばしていたのかも知れない。
彩月がぎょっとしたのは、彼女が上着も羽織っていなかったことだ。
声をかけると、首を回した彼女の顔は、存外に生気が抜けていた。
あさひが妊娠したの。たった二人、男を相手にしただけで、子供が出来たの。…………
小松原家における佳子の立場は、まるで薄氷だ。母親が愛人だったと聞いている。政略結婚でそこそこ名の知れた男のものになり、その苗字を名乗っていれば、表を堂々と生きることを許されたというのも、いつか彼女が話していた。
だが、佳子は良人の苗字を捨てた。
戸籍謄本における佳子は未だ小松原でないにしても、彼女にとってその男との三十年は、それだけ忌まわしかったのだ。
せめて子供が出来ていれば、と、彼女が漏らしたこともある。小松原との関係の強い組織のトップの後継者の母親であれば、自分の地位も、もっと確かだったろう。それが彼女の言い分だ。
ろくでもない男だったらしい。愛し方を知らない、愛すれば良いとだけ考えていた男と添い遂げようとした痕跡が、本当に欲しかったのか。
彩月は佳子に訊いたことがある。彼女に、首を横に振らせるつもりで訊いた。