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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女


「守れもしなくて産むべきじゃない。産まれる前に殺してあげるべきなのよ。あさひ、貴女は売られたの。あの育江さんは、貴女を恨んでしかいない。あの人はご自分の娘達も恨んでいる。その矛先を貴女に向けたの」

「どうして……そんなこと、が、分かるんですか……」

「私が、幸福な人間を見たことがないから」

「──……」

「もし私に子供がいたら、その子が邪魔になっていたでしょうからよ」


 それでも、たとえ憎しみの対象でも、あさひは育江のためにそこにいた。今更、否定出来ない。


 結果、あさひには、もう佳子の言う自由さえ望めないのだ。
 後悔や悩みとも無縁で、最近は泣いてばかりいる。泣いていない時は肉体を擲っているか、眠っている。眠りたいのか、眠りに逃げているのかは、分からない。


 佳子の言う通りだ。

 あさひは、二人の人間を救った。産まなかったことで、人間が二人、苦しみ喘ぎながら生きるのを防いだ。


「うっ……ぐす……」

「あさひ」


 檻の開く音がした。

 玲瓏なメゾであさひを呼んだ声の主が、みっともなく顔中を濡らすペットに腕を回す。


「ひっぅ……──うっ、ひぃ……ウゥッ……ぐすっ…………」


 彩月の手が、あさひの背中を往来する。うなじを覆った髪を撫でて、とんとんと赤子をあやす手つきを繰り返して、彼女はあさひを抱き締めていた。

 来客が待っている。早く支度して行きなさい。

 佳子が、語気を強めた。
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