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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
「泣きやませたら、引きずってでも連れて行って。好村様がお待ちなの」
佳子が彩月に言い残して、立ち去った。
あさひは、いよいよ声を上げる。彩月の肩に顔をうずめて、彼女のシャツが水浸しになるのも構わないで、しゃくり上げては真新しい涙を生む。
十八年分の感情を、放出しているのではないか。
こうしてあるがままに自分の意思を認めても、あさひは佳子の所有物でしかない。そして、まもなく客の待つ部屋に入る。何を求められても応じなければならないし、耐えなければいけない。
「ひっ……ぐす……」
人は何かを失って、奪われていく、と佳子は言った。それらは戻らないのだと、彼女は諭しそびれていた。あさひが育江に売られた自由は、もう戻らない。
涙が落ち着くと、目蓋がだるいような痛みを持っていた。
顔を上げて彩月に詫びると、酷い顔、と、彼女があさひを揶揄して笑った。
「まだ逃げ出す気にならない?」
「逃げ出せない、です」
「嘘つき」
「…………」
「壊れるまで使われるよ」
言いようのない優しい目が、あさひを神妙に覗いていた。
相変わらずしどけない格好のあさひに、彩月は、佳子の客達のような目を向けない。触れる時は、人間として触れる。キスする時もそれ以上のことをするときも、人間として、いつでもあさひに接していた。