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秘匿の闇市〜Midnight〜
第7章 救済と矛盾

* * * * * * *

 眠るのがもったいない、と繰り返していたにしては、豪奢な天蓋付きベッドに横たわって二分と経たない内に、あさひの重たげな目蓋が閉じた。

 規則正しい寝息が立つのを見届けて、頬近くに組んだ彼女の指から片手を離すと、彩月はそっと檻を抜けた。





 彩月のノックに、すぐに佳子の顔が覗いた。明るい癖毛をラフに束ねて、ハリのある凹凸の肉体を寝巻きに包んだ彼女の姿は、無言の牽制を醸していた。


「何か用?」

「……特には」

「そう、顔を見に来てくれたのね。私も同じ気持ちだった」


 彩月が佳子の脇を抜けると、寝室は彼女の匂いが染みていた。そうした所感を前に述べた。すると佳子は、ここの住人は皆、同じ石鹸を使っているのに、と言った。


「昔読んだ低俗な本に、囚われのお姫様が日が経つに連れて、館の主人と仲を深めていく話があったの」


 扉を閉めると、存外に中は明るかった。

 寝台に腰かけた佳子の口調は、天気の話でも始める調子だ。


「素敵だと思った。今は、あの時の感動を返して欲しいわ。館の主人は、何故、お姫様に腹が立たなかったの。明るくて美しくて、生まれながらに身分があった。主人にはないものばかりだった。それで貴重な十代の頃、ずっと虐げられてきたのに」

「お姫様に、情でも移ったんでしょう。そんなに明るくて綺麗な子なら、一緒にいて慰められたとか」

「私なら、劣等感を──…いいえ、何故自分には何もなかったか考えて、気が狂いそうになる。その館では主人でも、権威は付け焼き刃だもの」
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