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秘匿の闇市〜Midnight〜
第7章 救済と矛盾
そう言えば、仏野姫猫も、周囲の心象を酷く気にしていたと聞く。
彼女の抱えた闇は深い。その闇が、彼女の理性を破壊したのではないか。それが盗聴器を通して受けた印象だと、以前、美影が話していた。
「あさひは、小松原さんのペットです。どうせ行き場もありません。その本の主人と小松原さんは、別人じゃないですか。理解出来なくて、当然です」
あさひを大切にしろ、労われ。
彩月が佳子を責められないのは、彼女の求めている人間が、単に見下せる相手と限らないからだ。共感者も欲しいのだろう。憤怒のやり場も欲しいのだろう。
「私が好き?彩月にとって、私は一番?」
彩月は佳子の両手を取って、それを包む。頬に触れる。ガラス細工を愛でる手つきで、彼女の顔の輪郭をなぞる。
「寂しがり屋ですね、今日の小松原さん」
「だって……」
裏切ったら許さないだの、一番愛して欲しいだの繰り返しながら、佳子は自身を面倒だと貶める。
「彩月、眠たい?」
「眠たくなったら、冷えないように布団かけて下さい」
「私からも、同じことを頼んでおくわ」
どちらからともなく口づける。
触れては離れて、離れては触れてを繰り返すキスに水音が混じり、歯列や舌を探り合うまぐわいに変わる。
もし佳子ら姉妹が小松原家の生まれでなければ、彩月は彼女と、ありふれた親族の間柄を超えなかっただろう。歳上の優しい婦人くらいの認識に過ぎなかったと思う。