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秘匿の闇市〜Midnight〜
第7章 救済と矛盾
例のごとく三が日明けはあさひに帰省の許可が下りて、その翌週に彩月が休みの要請をした。その際、あさひは彼女の実家に伴うことになった。難色を示した佳子だったが、自分ばかりあさひの帰省に同伴していてフェアじゃない、という彩月の理屈に、結局、主人が折れた。
「全く良いお嬢さんだ、あさひちゃん。彩月が家政婦をすると言った時は驚いたが、君みたいに真面目そうな子まで、この若さで小松原さんのところで働いているんだねぇ。おばあちゃんと一緒に住みたくなかったのか?」
「えっと……」
「お父さん、あまり詮索しないであげて。小松原さんのとこ広いから、住みたがってる子は結構いるよ」
「そうだったんですかっ?」
佳子が彩月に持たせたおせち料理を囲む内に、あさひはすっかり会話の輪にとけ込んだ。
あさひの父親は、今年も彩月にぎこちなかった。それもあって一抹の不安を感じていたのに、瀬尾隆は気さくで人当たりが良く、昨年、佳子の館で顔を合わせた程度のあさひを覚えてもいた。
ただし帰省中、あさひは苗字を名乗らないよう、彩月に釘を刺されている。
昔、彼女の父親が失恋した女と同じ苗字だから、傷を抉り返さないためらしい。
「ところで、お父さんは今でも疑っている。お前、本当はストーカーに遭っていたんじゃないか?」
「しつこいよ。それはない」
「お前ほどの美人は滅多にいないし、高校出た途端、引っ越そうって言い出したかと思えば、お父さんを残して出ていっちまうし……。成績だって、進学先選び放題って、先生達のお墨付きだったじゃないか」
「あさひ、黒豆?貸して、掬うよ」
「有り難うございます、ごめんなさい、不器用で……」
「無視するな。彩月、嫌な目に遭ってたなら、お父さんに言え。頼りなくても、出来る限りのことはする。今でもだぞ」
上調子だった隆の口調が、つと神妙さを帯びた。
どきりとするほど真剣な目に、あさひは隆の中に父親を見た。