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秘匿の闇市〜Midnight〜
第7章 救済と矛盾
初詣も、こんな風に胸が落ち着かなかった。いや、日常での買い出しも、帰省も、檻での朝の身支度でさえ、彩月との時間があさひの生気を繋いでいる。
彩月に好意を寄せた女達は、どれほどいたのか。彼女が一人も選ばなかったのは、何故か。
好意を自覚して一年経つのに、あさひは彼女の目に見える以上のことを、何一つ知らない。
海鮮丼と緑茶の風味が喉の奥に残す余韻を味わいながら、あさひは彩月と店を出た。
澄み渡った夜闇が街を包む中、雑踏を離れて駅へ向かう途中、にわかに彼女が足を留めた。
今年に入って、キスも交わしていない。彼女の軽口に翻弄されても、身体はずっと虚しいままだ。
ひとけのない帰路、しかも連休最後の夜、いよいよ胸が騒ぎ出す。
「帰ったら、挽回すれば」
「え……」
「友達なら、あさひには圭ちゃんや美影達もいる。根暗でもないだろうし、自由になったら、勉強くらい見てあげる。育江さんとお父さんだったら、今はお父さんの言うこと聞くだろ」
「──……」
「やり直せるよ。今のあさひなら、まだ」
何故、一つしか選択出来ないのだろうと思う。
彩月の厚意を受け入れて、自由になるのを期待したい。一方で、死ぬまで酷使されたとしても、彼女の側に居続けたい。
二つの思いが、あさひの中でせめぎ合う。