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秘匿の闇市〜Midnight〜
第7章 救済と矛盾
「そう、ですね。真っ当に生きて、叔母さんくらい仕事人間になって、私は一生かけて彩月さんに恩返ししないとですね」
「いらない。志乃さんみたいに出張ばかりしてたら、本当に会えなくなるよ」
「あっ、それは……」
「あさひ」
「っ……」
夢にまで見た抱擁が、あさひを包んだ。
細身で低体温の彩月の腕は、不思議と夜風を遠ざける。胸が迫るほどの優しさが、あさひに染み通っていく。
「前に小松原さんが言ったこと、正しいとは思えなかった」
「彩月さん……?」
「確かに人は、生まれた時点で救いを失くすのかも知れない。生きただけ、大切なものを失くす。否定はしないよ。でも、あたしがあの人に会えたのは、失くすところまで失くしたあとだった。誰にも助けを呼べなくて、助かる資格もなかったあたしを、小松原さんは理解ってくれた」
「そんな……」
「それまでのことが、どうでも良くなったんだ。壊れるだけじゃない。戻らなくて良い。それだけのものを、また見付けられたから。あさひにも何が起きるか分からない。何も起きなければ、戻ってきなよ。あさひを自由にした責任は取る」
「…………」
彩月に佳子以上のものがないのと同じで、きっとあさひには彼女に優るものがない。
それでも、あさひも得ているのかも知れない。失くしたものは戻らなくても、この想いが芽吹いた。愛おしさや、育江に示された以外の道を知った。
それから二ヶ月後のある朝、あさひは不快感に叩き起こされるようにして、まだ日の昇りきらない独房の中で目を覚ました。
決まった時間、彩月が着替えや朝食を運んでくるまで、途方もなく長かった。
永遠のような時間の末、彼女が佳子に医師を呼ばせると、あさひは性病の診断を受けた。