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秘匿の闇市〜Midnight〜
第7章 救済と矛盾
春になるまで、せめて次の誕生日まで、少なくともあさひが成人するまでに、彩月は彼女を解放したかった。
しかし一日一日が、着実に彼女を歪めていく。佳子に迎えられた時、既に手遅れだったところがあったにしても、今夜、彩月はあさひが壊れているのを目の当たりにした。佳子が手を下すまでもなかっただろう。
佳子が道を踏み外した原因は、あさひにある。
あの主人は、本当にあさひを見下すためだけに落札したのかも知れない。佳子は、かつての彼女を上回るほどの劣悪な境遇に置ける人間を観賞することで、自身への悲観をやめたがっていた。
あさひの妊娠が、佳子の計算外だった。
親族達から女特有の役目を望まれていた彼女にとって、不妊はコンプレックスだった。
不本意の縁談を受け入れた彼女が、配偶者の横暴に耐え抜いても労われなかった一因に、跡継ぎが出来なかったことがある。親族達は寄ってたかって、彼女を愚弄した。
あさひのような身体でさえあれば、佳子は、小松原氏に今も娘と呼ばれていたかも知れない。
肉欲に縋るようにして自我を放棄していたのが嘘だったかのように、あさひは目蓋一つ動かさない。
彩月は、粗末な仕立てのセーラー服から伸びた白い太ももに触れて、しっとりとした熱を帯びた指にじゃれつく。それでもあさひは無垢な天使のような寝顔で、安定した呼吸を保つ。
「…………」
美影を電話で呼び出した。着信音に叩き起こされたとぼやきながら、眠気まなこで降りてきた彼女に、彩月はあさひの付き添いを頼んで、私室に戻った。志乃の見立てた洋服を含む一式を、豪奢なロゴがプリントされた紙袋に詰めて引き返し、あさひにスプリングコートを被せた。