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秘匿の闇市〜Midnight〜
第7章 救済と矛盾
「あさひを普通のホテルへ連れて行って」
「え……?」
「いつもの起床時間までに、小松原さんの目の届かないところへ」
「冗談だよね?」
「お父さんか叔母さん達、どっちに頼りたいかは、本人に訊いて。育江さんはなし。起きた時、不安定だったら心療の先生に診てもらって……あまり意味ないだろうけど。状況次第ではあとで行くから。他の荷物はあたしの部屋。もしクビになったら、発送お願い」
彩月は、剛史や志乃に連絡がつかなかった際、当面の生活にあてがえるよう忍ばせておいたキャッシュカードを美影に押しつけた。最後に志乃の連絡先のメモを差し出すと、いよいよ彼女が顔色を変えた。
いい加減あさひをペットとして割りきれだの、彩月のためにも佳子のためにもならないだの、年長者らしい物言いで、それらしい理屈を並べる美影。
彼女に、彩月はあさひが眠る直前までの様子を説明した。説明した上で、あまり騒ぎ立てると起こしてしまう、まだ発情していたら始末は任せる、と脅しをかける。
「先輩を主犯に仕立て上げるなんて」
「こんな時間にタクシー呼んだら怪しいし、あたしが無免許で車出す方がやばい」
「私のメリット、ないよね」
「可愛い後輩の苦労の種が、一つ減る」
こんな時、あさひや圭に備わる類の愛嬌が、少しでもあれば良かったのかと、彩月の頭の片隅を掠めた。
しかし美影は満足した振りをして、駐車場にあさひを運ぶのを手伝うよう指示してきた。
夜露に濡れた草の匂いが、穏やかな冷気を含んだ風に溶けて、新緑の影を揺らしていた。外の世界では春も過ぎたと惜しまれているのに、やたら寒い。
あさひと彼女の荷物の一部を積んだ車が森の向こうに消えると、彩月は腕を抱えて館に戻った。
第7章 救済と矛盾──完──