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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
「美影は、あさひの居場所を知ってるのよね?」
「はい。無理矢理、頼みましたから。責任はあたしがとります。何でもお申し付け下さい。解雇も賠償金も覚悟の上です」
「あの子に稼がせたお金は、買い値の半分に達していたわ。貴女が身請けするつもりで準備していたという金額を合わせれば、残りは大したことないのよ。今まで通り家政婦を続けてくれれば、私の損失はほとんどない」
佳子は、努めて理論立てて話を進めている様子だ。
思いのほか感情的にならなかったのは、彼女曰く、こうなることも予想の範疇だったらしい。無償で女達の機嫌をとっていた彩月が、ある日を境に、精力的に客を取るようになった。駆け落ちの準備でも進めていたのかと疑ったこともある、と笑う佳子は、どこまでが本心で、どこまで瞋恚を抑えているのか。
「でも彩月」
佳子の置いたカップの底は、僅かな飴色で色づいていた。彩月が二杯目を勧めると、彼女は片手で不要と答えた。
あさひを連れ出したのが、いっそのこと美影の意思であれば良かった。あさひを憎んでいるのは事実でも、彼女の存在が慰めだった。
そうしたことを呟く佳子の長い睫毛の影を落とした目は、温度を失くした紅茶を凌ぐ冷気を湛えて、ただ一点を見つめている。