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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法

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 夏にあさひを迎えて以来、志乃はなるべく自宅を空けないようスケジュールを調整していた。
 加えて彼女は、高校を中退していたあさひに家庭教師を呼んだ。佳子の館にいた家政婦達の大半と同世代の大学生は二人いて、彼女達は週二日ずつの合わせて四日、決まった時間にあさひを訪ねる。


「あさひちゃんは、やっぱり暗記に苦手意識があるかな?仕方ないか。私も化学物理や近代史は不得意だったし、高校は赤点さえ取らなければ問題ない。大学入試は、この辺の教科いらないからね」

「有り難うございます。でも、英語も……間に合うでしょうか」

「志望校が……──あ、ここと、ここか。第三志望のここなら英語も捨てられるけど、せっかくなら本命受かりたいよね」


 今日あさひを担当している家庭教師は、持越理良(もちこしりら)だ。
 あさひでも聞き馴染みのある私立大学の在校生である理良は、二十歳にしては落ち着いていて、親身に勉強を見てくれる。中退して一年以上の空白期間を置いたのち、通信制の高校に入学したあさひの事情を気にもしない。その上、夏の初めは中学校の問題もろくに解けなかったあさひは、未だ出来の良い生徒とは言い難いのに、理良は嫌な顔ひとつ見せないで、根気強く指導する。彼女ともう一人の家庭教師、二人のお陰で、あさひは着々と十八年の遅れを取り戻していた。


 一対一の授業のあと、あさひが理良を見送るために一階に降りると、キッチンから甘い匂いがこぼれていた。その扉から、タイミングを見計らっていたらしい志乃の顔が、ひょっこり覗く。
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