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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
「お疲れ様。理良ちゃん、このあと予定ある?」
「あ、志乃さん……。いいえ」
「じゃあ、休んでいって。見ての通り姪は引きこもりで、話し相手してくれたら嬉しいな……なんて」
志乃の強引な誘いにも、理良は遠慮がちに謝意を述べた。
あさひと志乃、そして理良の三人で、日の沈んだ空の覗いた窓を脇に、テーブルを囲う。
本当に今、目を覚まして起きているのか疑るほど静かな空間の真ん中に、今しがたの甘く香ばしい匂いの出どころ──…練乳風味のクリームを挟んだスコーンが、盛りつけてあった。
「いただきます。……んっ!美味しいです。志乃さんの手作りですか?」
「うん。お口に合って良かったよ」
「本当に有り難うございます。甘いの大好きです。それに紅茶もお菓子に合ってて、ほっとします」
「褒められちゃった、嬉しいな。でも、これで勇気出して引き止めたんだし、本当に都合悪くなったら言ってね。家の方とか」
「お気遣い恐縮です。ウチの親は、そんなに厳しくないので大丈夫です」
志乃が理良に少しでも肩の力を抜かせようとして、気を遣って話しているのは、あさひから見ても明白だ。
聡明で、礼儀正しい。絵に描いたような優等生である理良は、それを全く鼻にかけず、志乃と打ち解ければ打ち解けるほど、くるくると表情を変えて、口数も増やす。
彼女が学校でのエピソードを話した時、つと、あさひに圭の顔が浮かんだ。かつて在学していた高校でも親しい同級生のいなかったあさひは、二歳上の彼女と出逢ったあの日、同世代の少女と親しくする楽しみを知った。彼女に教えられて、初めてパンケーキを口にしたのも、もう随分と遠い日のことに思う。