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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
育江の言葉が全てだった。実の母親が見捨てたあさひに心魂注いでくれた祖母は、慈愛の象徴そのものだった。育江があさひに諭すことは正しくないはずなかったし、彼女に恩を返すため、彼女のために生きていた。
佳子のものになったあとは、彼女のために日々を過ごした。
そしてあさひは、今また志乃の優しさに応えたいがために手探りをしている。
女のくせに知識を付けて、女のくせに誰にも媚びず生きていけるような力を、あさひは初めて求めようとしている。
それは新しい保護者である志乃がそうであるために、あさひも模倣しようとしているだけなのかも知れない。あさひの幸福を願う志乃を満たしたいがために、世間がそうと認める在り方を、見様見真似に演じようとしているだけか。
何せあさひは、自身の望みを分かっていない。
睡眠も食べ物も充分すぎるくらい与えられて、一日数時間の学習時間を除けば、あとは働きもしないで本を読んだり、贅沢な部屋で歌を口ずさんだりしているだけだ。
あさひが袖を通している過剰装飾の洋服は、同じ年頃の少女達の感覚からすれば、よそゆきのために普段はクローゼットに眠らせておくべきほどには特別らしい。その有り難みもよく分からないで、やはり志乃が「可愛い」と言って喜ぶという理由だけで、あさひはこの格好をし続けている。
働き盛りの叔母夫婦は、揃って自宅に滞在していることもあった。
あさひがこの家に来て四ヶ月、ある日の夜、叔父の帰りが聞かされていたより遅かった。不審に思っていたのはあさひだけで、事前に連絡を受けていた志乃は、玄関から物音が聞こえると、作りかけの味噌汁を再加熱した。