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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
「ただいま、あさひちゃん。志乃。魚釣ってきたぞー!」
「ええっ?!」
「本っ当、馬鹿だよねぇ。あさひちゃん見て?この人ってば、仕事帰りに◯◯まで車走らせてきたんだって。鈴田くんと。寒いのに信じられないわ」
わざとらしく身震いする身振りをして、志乃が大口を開けて笑う。
テーブルに並んだサラダに目を丸くして、叔父が情けない声を出す。
「志乃ー。俺、帰ってきてから一度も作ってないじゃないか。お前社畜なんだしさ、たまにはゴロついてろよ」
「悪かったわね、社畜で。社畜で魚釣って帰ってるよりマシ」
「これは趣味だよ。あさひちゃんだって、新鮮なお魚好きだよなー?叔父さんが捌いてやるからなっ」
「で、何釣ってきたの?…──おおっ、身、厚いね。褒め尽くしてあげる!」
叔父が志乃からクーラーボックスを取り上げて、流し台へ運んでいった。
彩り豊かなサラダに出汁から取った具だくさんの味噌汁、それに雑穀の入った米と釣りたての魚は、二年前まで食の細かったあさひ自身が信じ難いほど箸が進む。ブラウン管の中でしか存在しなかったような食卓を囲んでいる途中、いつか育江の別荘で思い描いた空想が、ふとあさひに蘇る。
志乃はあの頃、まだ叔父との新居を考えてもいないようだった。二人とも育江が苦手としても、全国を転々としていれば、特に不都合がなかったのが大きい。
それでもあさひは、もし彼女らの間の子供だったらと、思い巡らせたことがある。志乃と叔父に産み育てられていれば、育江の否定していた愛を信じて、あさひ自身も明るい家庭に憧れただろうか。