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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
「そうだ、見て。あさひちゃんが来てくれたから、掃除も気合い入っちゃってる」
「だな。……って、あそこ積んでるだけじゃないか!」
「あれは、時間がなかったの。他は結構、出来てるでしょ?」
「まぁな。あとは俺に任せろ。最近お前、仕事と主婦の往復じゃないか。福井さんが悲しんでたぞ、相手にしてくれないって。近い内に遊んでやれ」
「上手いこと言って、あさひちゃんを独り占めする気じゃないでしょうね?!」
「志乃に言われたらおしまいだよ!」
羨ましいとは思う。もし特別な事情もなく、本当に志乃達の娘か息子がいたとすれば、あさひはその子供が羨ましい。
だが、身に染みついた価値観は、たった四ヶ月では塗り替えられない。この愛情に満ちた日々が永遠だと語られても、少なくとも育江を通して、この優しい叔母とは血縁があるとしても、あさひの父親は剛史一人だ。
あさひを暖かく迎えたこの家庭では、線引きなしでは暮らせない。
そうしたことを、あさひは美影に話す機会があった。
志乃にスマートフォンを持たされて以来、彼女とはたまにLINEを交換している。彩月にも繋いでくれと頼んだが、家政婦の人手が足りていないらしい。多忙という理由から、あさひの望みは保留になった。
どういった話の流れからそうした話題になったのかは、トーク履歴を読み返しても分からない。
ただ、一時期のあさひが思い上がっていたことだけは分かる。
美影と話すほど、あさひが目を背けてきた耐え難い予感は、無情な足音を立てて忍び寄ってくる。