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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
十二月中旬、通信高校の期末考査を終えてあさひが門を出てくると、志乃の迎えが見えていた。
今年はコートを新調していない。いつもの店舗に寄り道して、ついでに旅行会社へも行こうという彼女に従って、あさひは自宅とは別方向のバスに乗る。
校内でも見かけた生徒達の数人が、同じ車内に乗り合わせていた。滅多に顔を合わせないはずの彼女らは、まるで元々交流がありでもした風に親密で、いつこれだけ打ち解けたのかと不思議に思う。
眩しい。
ついに無縁のままになるのだろう光景に目を遣っていると、志乃が心配げにあさひを見ていた。
「寒い?」
「え……」
「ごめんね。試験で疲れてるかも知れないのに、誘って。服は、ついで。本命は旅行会社なんだ」
「どっか行くの?」
「お正月。受験生連れて、父親の剛史くんには謝らないといけないけれど。あさひちゃん、私のお母さんとは会いづらいでしょ。旅に出ちゃえば、お正月過ぎてから、私だけ行けば良いから」
「…………」
「どこ行く?海?海は寒いかな。でも沖縄なら、景色だけでも楽しめるし!温泉は前に行ったしなぁ」
途方もなく広い世界の僅かな部分も見てこなかったあさひはどこに行きたいか、どんな場所があるのかも、知らない。
ただ、佳子に落札されて初めての新年、彩月と見た夜景は輝いていた。志乃が二人を並べて撮影したフォトスポットは、最近思い出して調べると、恋愛的な曰わく付きの石が祀られていた場所だったというのが分かった。記念撮影すれば添い遂げられる。ロマンチックな伝承とは別に、あさひは彼女を幻滅させた。多忙など、あさひと距離を置くための口実だろう。
彩月と花火を眺めた夏に戻りたい。彼女の実家を初めて訪ねて、温かい家庭の片鱗を見た、一年前が懐かしまれる。