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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
彩月の話は、にわかに信じ難かった。
あさひが彼女に聞かされたのは、予め志乃が姪の生い立ちでも話していたのを元にして、それらしい冗談でも思いついたのではないかと疑る程度だ。
加えて、佳子との関係だ。ことあるごとに耳にしていた噂話は、根も葉もないものではなかったということになる。
「彩月さんこそ、ドッキリですか?」
「帰ったら志乃さんに確かめれば良い。あさひのお父さんも知ってる」
「…………」
「立花陽音は、あたしのお父さんの再婚相手。あさひを捨ててまで選んだ男ってこと」
「そんな……」
「捨てて、は、言いすぎか。弱ってた陽音さんをお父さんが慰めて、結果、たぶらかしたんだって」
「…………」
それではあさひの母親は、瀬尾隆に出逢わなければ、今でも身近にいたのだろうか。
「お母さんって、どんな人でしたか……?」
「昔のことだから。お父さんとあたしを困窮に追いやったくらいしか、印象に残ってないよ。あさひとあたし、同じなんだ。落札されたって聞いた時から、同族嫌悪してた。金で身体を売る女を軽蔑してる。だからって、あたしがそうじゃなかったとは言ってないだろ」
「…………」
あさひの中で、今度こそ、もつれていたあらゆる糸が結びついた。
彩月が佳子に雇われたと同時に前の家を引き払ったのは、大家と別れるためだった。
瀬尾隆はあさひの実母と離縁したあと自己評価をことごとく落として、無職になった。仕舞いに貯金も底を尽きて、その父親を養うために、彩月は大家と取り引きをした。そうして三年弱、性に奔放な女の慰み者になった彼女は、精神的にも肉体的にも愛情というものに手ごたえを感じなくなった。その矢先、実の母親と同じ苗字の佳子を見つけて、失くしていたそれを見出した。…………