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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
あさひは、きっと彩月に過ぎた日々を想起させる存在だった。
志乃があさひに何を匂わせていたか、ぼんやり分かった。破瓜を許した相手の名前もついに知らないままになった彩月は、金のために誰かれ構わず媚びへつらっていたのと同様、愛が目前にぶら下がっていれば迷わず跪くだろうという。
「泣きたくなるところだと、思います……そんな酷い話、聞かされて。私のお母さんが元で、そんなことになってたなんて。ショックですけど、彩月さんの感覚はおかしいと思いませんし、私が彩月さんに幻想を持ったこともありません」
あさひは彩月に距離を詰める。当たり前に触れ合って、当たり前に朝夕顔を合わせていた一年半が、頭を駆け巡る。
「確かにすごく格好良くて、皇子様みたいに高貴な人で、佳子様のお友達の方々だって一目置いてる、そんな印象は強かったですけど、でも私が彩月さんを好きになったのは、あの日々があったからです。人を好きになっちゃダメ。女が意思を持っちゃダメ。そんな、おばあちゃんに口を酸っぱくされていたことだって守れなくなったくらい、私は側にいてくれた彩月さんが好きでした」
「あさひ……」
「隠しておくつもりでした。愛してもらえなくても、愛してるだけで幸せだから、側にいられた頃は、言う必要ありませんでした。でも会えなくなって、会いたいって気持ちが膨らんで…………この想いが、身体も思考も矯正された生きてきた、私が初めて自覚した大切な自我──…」
「あさひ」
「っ、……」
腕を引かれて、その弾みで軸を失くしかけたあさひの身体が、彩月の胸に倒れ込んだ。
彼女の腕の中に収まって、胸と胸との距離を失くして、普段は気に留まらない華奢な身体にはっとする。その儚げな存在を確かめるようにして、あさひは片手を彼女の背に遣る。
「あさひさ、自分が可愛いこと分かってる?」
「……えっと……」
「無自覚なら魔性だよ」
そう言って腕をゆるめた彩月が、あさひの顎を持ち上げた。