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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
「当分、ここは辞められない」
「──……」
「あさひを逃したこと、家政婦として埋め合わせはしなくちゃいけない。でも信じて。あさひには、負けたよ。あさひを幸せにするっていうの、ちゃんと側にいて事実にする」
「彩月さん……」
佳子を見捨てられない。
救われたくても、彩月は誰にもそれを求めることが出来なかった。
陽音の憎悪を浴びていた時も、大家の慰み者になっていた時も、それを選んだのは彩月自身で、強いられたことではなかった以上、泣きこそしても許しを乞う気になれなかった。
学校に行けば、彩月に好意を寄せる少女達は後を絶たなかった。彼女達が彩月にいだいていた心象が実際とはかけ離れていたのは明らかだったが、彼女らの求める通りの人物像を演じることは苦ではなかった。ありのままを晒け出す方が難しい。それは佳子に雇われてからも変わらなかった。
今も昔も、彩月に寄り添えるのは佳子だけだ。
彼女が小松原湖都の娘である彩月を支配することで、過去の屈辱を晴らすというなら、それでも良かった。
だが彩月は、佳子への執着を差し引いても、もうあさひから目を背けられない。
握ったあさひの手が、同じように彩月の手の甲に指を被せた。
「埋め合わせなら、自分のことは自分でします。受験終わったら、ちょうどバイトもしたかったですし──…」
その時、前方に佳子が現れた。
「同意の上なら、話は早いわ」
木々が小屋を囲繞しているここら一帯は、把握している道を外れてしまえば、敷地内で迷うことがあるくらいには入り組んでいる。従って、あさひの肩越しに見える大木の影から出てきた佳子がいつからいたのか、どこから歩いてきたのかも、見当つかない。