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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
志乃に連絡するよう促す彩月からスマートフォンの画面を隠して、あさひはメモ帳を開く。そこに打ち込まれた番号に発信した。
デジタル時計は、明け方と言える時間を指していた。数回の呼び出し音のあと、今あさひが初めて見た番号を打ち込んだ本人が、電話口に出た。
「あさひです」
こんな時間まで眠らず待った甲斐がある、そう言って、佳子が掠れた笑い声を立てた。
束の間の気絶から戻った時、佳子はあさひに部屋着を着せた。そして賭けを持ちかけてきた。
彩月の拘束を解いて、あさひの持ち物を彼女の目につきやすい場所に置く。彼女があさひを見捨てなければ、あさひは佳子の持ち物に戻る。彼女があさひを諦めていれば、結局、佳子は何も盗まれなかった。同情して、哀れんで、あさひを自由にする。…………
十九年間、溜め込んできたものを吐き出しでもする調子で、あさひは彩月にとりとめない話をした。
それらは、あさひらと同世代ほどの少女達からすれば、初恋も知らない無知な子供の戯言だろう。
育江がいくら否定しても、初々しい憧憬だの甘い恋だのに、幼い時分は憧れていた。テレビや読書までは禁じられていなかったため、浮ついた観念に全く触れなかったわけではなく、しかし現実に経験した恋は、架空ほど初々しくも甘くもなかった。彩月に出逢えたのは、あさひが佳子に落札されたからだ。彼女に惹かれていったのも、佳子が彼女と引き合わせたからだ。側にいたくてあらゆることに耐えながら、あさひは想いも押し殺していた。