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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
「やることはさせられたけれど。会社をまともに手伝えるようになってからは、最低限、人間扱いしてもらえたよ。エロ親父なのは仕方ないし、加齢臭も、あの人の責任じゃないしね。私が人事部にいたのは、何故か私の意見って、良い結果を招くことが多かったからなの。仕事の効率に繋がったり、業績が伸びたり」
「冬華さん、才能あったんですね」
「偶然だよ。最初は偶然だった。でも少しずつ要領を得るようになって、今じゃお給料も鰻上り。昨年、愛人契約が切れてからは、仕事もしやすくなったし……」
前菜に舌鼓を打ちながら、あさひは冬華の身の上話を聞いていた。
あの場の雰囲気に酩酊して、橋谷は冬華をラブドールと呼んでいたが、蓋を開ければ、彼女の待遇は愛人の域を超えなかったという。橋谷は冬華に生活に不自由しないだけの環境を与えて、長期休暇には旅行に連れ出した。仕事を教える時は厳しかったという。その分、冬華が成長すれば、他の社員達と分け隔てなく昇格させて、給料も与えた。四年という、橋谷が冬華のために投資した金に見合う期間が過ぎると、そのまま彼女を社員として雇用した。
「あさひちゃんは?今、実家よね?どんな人に落札されたの?私の方が先に抜けちゃったから、あの時いた最年少の女の子のこと、少し気になってたの」
昼間からシャンパンを二杯追加して、冬華は本当に美味しそうにチキンステーキを頬張っている。親身にあさひの話を聞きたがる彼女に、傷付いた小鳥のようだったビキニの女の面影はない。
冬華は傷付いたのだろう。キスも子供らしいと言われていた彼女は、おそらく男を知らなかった。あさひのように、せめて処女だけでも愛する相手に委ねられる機会もなかった。
結果としてあさひほどの地獄を見なかったとしても、冬華なら理解してくれるかも知れない。あさひが今、どれだけ全てを終わらせたいか。それでも死ぬのは怖いから、自らあの闇市に足を向けたがっているか。