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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
非日常的な部屋に、贅を尽くしたスイーツ。
佳子は、本当にそのためだけに彩月を呼び出した風に見える。
突然、彩月に一抹の不安が押し寄せた。
美影があんな冗談を言ったからだ。
「小松原さん。……ご病気など、されていませんよね?」
佳子の目が丸まった。それから得心した顔をして、こんなにはしゃいでいるものの精神疾患などではないと前置きすると、語調を変えた。
「彩月」
「…………」
「お誕生日、おめでとう」
それは、佳子の口から出るはずのなかった言葉だ。
佳子に雇われてから今日まで、ほぼ暗黙の了解で、互いに誕生日を祝わないことにしていたからだ。
彼女にとって、この世に生を受けたことは不幸の始まりを意味する。生まれさえしなければ何も失くさず、奪われない。
「嫌がらせですか……?」
思考が混濁して、やっとの思いで、彩月はそれだけの言葉を捻出した。
すました顔で、佳子はマカロンタワーを眺めている。
「本心よ。良いじゃない。私の友達は、私の誕生日を祝うのだから。いつか死ねた時こそ、喜んで欲しいのに」
「それは難しいご所望です。あたしは死にたくないと思ってますし。心の中でだけでも愛する人に同じことを望むのは、勝手ですから」
「そうね。だから貴女がこの世に失望しないことを私が否定し続けるのも、私の勝手。おかしいの。九年分のプレゼントも用意したわ。受け取ってくれる?」
佳子が取り出したのは、平らな包装紙にくるまれた何かだ。
「今、開けて」
彩月がその通りにすると、書類が二枚と紙切れが一枚が出てきた。
「え……」
今度こそ思考が停止した。
映画やドラマに喩えるなら、彩月の手元を覗く佳子の目は、恋人に数カラットのダイヤモンドを贈ったあとの男よろしく、無邪気に輝いている。