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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
目を伏せた佳子の顔色が、彩月には読めない。
確かに愛を囁き合った。気も遠くなるほど何度も、何度も、ありふれた恋人同士を気取ったセックスもした。
頑なに他人に怯えていた佳子が触れることを許すのは、彩月だけだ。彩月が彼女を離れれば、おそらく一生、彼女は愛に触れられなくなる。親友と呼べる女は溢れるほどいても、彼女らは違う。何より彼女が語ってきた理屈は、彩月にも当て嵌まるところがある。
「小松原さんのお友達に対しても、あたしは偽ってこないといけませんでした。そうやって、これからずっと、あさひといることは不可能です。四年も経って、他に相手だっているかも知れないし、彼女が精神的なものを望めば、きっとあたしは傷付けます」
「あの子は知ってるじゃない。美影に探りを入れさせたところ、就活で恋愛どころではないみたいだし」
「…………」
「決まりきった未来なんてない、と、私に実感させて。いくらでも変えられると。でなければ、彩月を手に入れても、変わらず私は虚しいまま。何故かなんて分かってる」
一度身体を売った女の烙印は、死ぬまで消えない。
あさひにぶつけたあの言葉は、本心ではない。彼女を落札したことが何よりもの証だと、佳子が言葉を強くする。
「命令よ。私を想ってくれるなら、周りの機嫌ばかりとって、搾取に怯えていなければいけない人間の気持ちなんで分かりもしない人達が羨むほど、あの子を幸せにしてあげて」
佳子は、あさひの住んでいる場所や通っている学校まで、彩月に明かした。情報源は、美影だろう。
部屋は、日帰りで押さえていたらしい。
日が沈みかけると、佳子が急いで残りのマカロンの取り分けた。
彩月は備え付けの電気ポットで湯を沸かして、彼女に紅茶かコーヒーかを選ばせる。こうして彼女に飲み物を準備するのも、あと何度になることか。