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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
「幸せになんかなれないって、思ってた。誰にも愛してもらえなくて、辛くても苦しくても、助けてって言えなくて」
「…………」
「こんな見た目だし、あたしって何不自由なく生きてきたように見えるんだろうね。その期待を壊しちゃいけないって、ブレーキかけてた。周りの人達を失望させて、向けられる目が変わるのが怖かったから。自分を守るために、意地張ってた」
本当は助けて欲しかった。愛されたかった。
そう言って、彼女が未だ裸体をコートでくるんだだけの、あさひの首元の襟を正した。
彼女の指が、頬にかかったあさひの髪を払いのける。
「あさひは、欲しかったものをくれたんだよ。他に何もいらない。今度はあたしが返す番」
「彩月さん……」
「見返りはいらない。そう言ってくれたあさひの気持ち、今なら分かるから」
…──ただ愛させて。
彩月を疑う根拠があるなら、それはあさひが、誰かと共に幸福を求めて良いだけの価値を自身に見出せないところにある。
信じてはいけない。守られてはいけないと、育江の教えを見限ってからの方が、あさひは安らぎを遠ざけていた。
もう何も拒ばない。
何が正しいだとか最善だとかに、答えはない。
「私も……」
目の前に望むものがある。あさひが初めて自我を得たのは、彩月との時間を通してだった。
「彩月さんの側にいたいです。愛して、愛してもらって、愛するためにここにいます」