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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
* * * * * * *
何のための人生だったのかと思う。
たった一人きりになった書斎で、佳子は冬空の光を受けた森を見下ろしていた。
彩月が家政婦募集の広告を見つけてきたのは、偶然だった。彼女に母親の写真を見せられなければ、冗談として受け流していただろう。しかし共に過ごすほど、佳子は彼女に、小松原当主の愛娘の嫡子の面影を強く見出すようになった。
実の姉さえ、佳子に見向きもしなかった。その孫娘は、父親の生まれが卑しかったというだけで、悲惨な境遇の中にいた。
佳子にとって、彩月は同胞でも仇でもあった。姉の血を濃く継ぐ彼女を思いのままにしていれば、一方的に優越感を覚えていられた。それは初めの内だけで、佳子は彼女に恋をした。出逢いさえ違えば、孫ほどの年端の彼女に、情けないほど切実な恋慕を向けていただろう。
本気の愛など期待しない。虐げられてきた佳子に必要だったのは、愛情より畏怖だった。だが彩月を解雇したのは、あさひの言葉を借りるとすれば、愛のための自己犠牲だ。
だが、まだ虚しい。
美影から、あさひが無事に告白を受けたという報告を聞かされても、佳子の孤独は底を失くしただけだった。
「小松原さん」
突然のノックに続いて、美影の声が佳子を呼んだ。