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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
入室を促すと、美影がティーセットを並べたワゴンを転がしてきた。
装飾性の高いティーセットをより華やがせるのは、苺色のクリームを挟んだスコーンやドレンチェリーのクッキー、チョコチップのカップケーキなどの焼き菓子だ。
佳子は予備の椅子を出して、美影に勧める。
カップは一人分しかない。回し飲みを提案した佳子を、彼女がはしたないと言って咎めた。
「本当に、一人になってしまったな……と思って」
茶菓子だけでも分け合うことで話をつけて、佳子はカップに口をつけた。向かい側で、美影もクッキーをつまみ上げている。
「私なんて、どうせ誰にも愛されないんだなって」
「…………」
「好きな女のために身を引いても、私は何も変わらなかった。こうして、いつか忘れられてしまうの」
佳子には、あさひのように、不幸を愛に変換出来ない。
冷えた手先を温めるアールグレイティーは、美影らしい香りが上る。同じ茶葉でも、淹れる人間によって味わいも違うように感じる。
「小松原さんは、何が欲しかったんですか」
美影が独り言の調子で呟いた。