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秘匿の闇市〜Midnight〜
第3章 飼育される侍女達

 あの時は、ただ女として、男の要求にいかに上手く応じられるか、そればかりがあさひの意識を追い立てていた。

 客席で育江が見ている。しくじれない。


 しかし今は、あの時とは違うプレッシャーが、あさひにまとわりついている。

 自分から何かを望むなど、女としてどうかしている。はしたないのに、あさひは、後方の美しい家政婦とのこの話題が、ある地点に至るまで続けば良いと願っている。

 その地点というものに、思いがけず早く至った。


「じゃ、やって」

「はい……?」

「あさひから、キスして」

「…………」


 振り向くと、彩月の玲瓏な目があさひを射抜かんばかりに見澄ましていた。

 急に羞恥が押し寄せて、あさひは慌てて脚を閉じる。

 奥二重のくっきりとした目許の奥は、見たこともない濡れた輝きを湛えている。
 何故、こうも整った顔かたちの人間が存在するのか。あさひとて自分の容姿が別格である自覚はあるが、おおむね努力の結果や育江の遺伝も関わっていて、それでも平凡の域を出ない。


「良いんですか?」

「キモオタに顔中舐められて、そのノリで初めてを奪われたヤツに言われたくない」


 キモオタ、というものが何かは知らないが、彩月からすれば、今しがた話したあさひのファーストキスの相手に、そうした形容が相応しいらしい。

 尻を浮かせて、あさひは彩月に顔を近づける。鼻先が触れ合う距離になったところで、目を閉じて、思いきって身を乗り出した。
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