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濡れて堕ちて……
第1章 孵化
「あ、…お箸は一膳でよろしいですか?」
「あ、はい…」
キョトンとされてしまった。
お弁当1つしか買ってないんだからそりゃ一膳に決まってるのに…
あまりにもいきなり現れるから
声まで裏っ返ってしまった。
何当たり前の事聞いてるんだろう、私。
「ありがとうございました!」
コロッケ弁当と烏龍茶を買い、店内を後にしたスーツ君。
びっくりした、お昼にも来るんだ。
お昼にあの人が買いに来るなんて初めて見たけど、いつも来てたのかな?
ほとんどの人はここで朝ご飯を買って電車やバスに乗って出社。
お昼もここで買うとなると近場に勤めてる人って事になる。
まぁ、この辺にもビルや会社は沢山あるから別に不思議な事じゃないけど
『あ、お願いします』
朝はガヤガヤ賑わってるから気づかなかったけど
意外と低い声なんだ。
その後、休憩を終えた長谷川さんと先程現れた爽やかなスーツ君の話で盛り上がった。
「この近辺に勤めてる人だよ、きっと~」
「いつも見てるだけにびっくりしましたよ~」
お昼を過ぎるとウトウトしてしまう。
春の陽気のせいかポカポカして気持ちいい。
さすがに今の私には春の陽気を感じる余裕なんてないけど。
長谷川さんも私も足に疲れが出て来てる。
「お昼を過ぎると時間が経つのが遅く感じるわ。陽子ちゃんもそう思わない?」
「そうですね~。そー言えば長谷川さん、お孫さんが産まれたんですよね?早く帰りたいんじゃないですか?」
「そうなのよ~。早く孫に会いたいわ~」
そう嬉しそうに語る長谷川さんは本当に可愛くて
何だかこっちまで嬉しくなってしまう。