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濡れて堕ちて……
第6章 贖罪



小走りになったせいか10分も経たないうちに着いた。

何度も来たこのマンション。

このマンションに来るのもきっともう最後なんだ。


オートロックのマンション、覚悟を決めて震える指でインターホンを押す。


ピンポン────────。

『はい?』




ドキッ

久しぶりに聞いた徹の声。

別れを告げるって決めても、1度は心を許した人。

胸が締め付けられる。



『…陽子さん?』

「…うん。今着いたから鍵開けてもらえる?」

『はい。入って来て下さい』



私がマンションに入ろうとする頃、空から雨粒がぽたぽた落ち始めている。

あ、降って来ちゃったな。






ドアノブを回す。

ガチャリと開いたドアは私の侵入をあっさり許した。

いつもこうやって入ったんだっけ。

徹の部屋の勝手ならだいたいわかってる。

徹はこうやっていつも私を招き入れてくれた。

玄関で靴を脱ごうとした瞬間、私は徹の部屋のある変化に気づいた。




──────────────。





リビングに続く廊下が…、何となく、以前と比べて殺風景に感じる。

玄関マットもないし、廊下に飾ってあった絵もなくなってる。


妙な違和感を感じて足早にリビングに向かった。

「徹?」

リビングのドアを開けると、そこは



「あ、いらっしゃい。陽子さん」

「どうしたの…、これ?」


リビングはもぬけの殻だった。

テレビもテーブルもソファも…、何もない。

ガランッとした部屋には数個のダンボールと徹だけ。


「引っ越す事になったんです」

「あ、あぁ…、そうなんだ…」


久しぶりに来た徹の部屋、何もなくなってて少し驚いたけど

「あ…先週、忙しかったのって引っ越し作業で?」

「うん。大きい荷物は先に送ってもらって、後は自分で運ぼうと思って」
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