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濡れて堕ちて……
第7章 淫獣
背筋が凍る。

こんな奴にそんなふうな目で見られていたのかと思うと吐き気がした。



おかしい…。

この子、狂ってる!




マトモな人間のすることじゃない!







「陽子さんさぁ。救急車を呼んだとき俺があそこにいたのは偶然だって未だに思ってるんですか?」






その一言で考えたくない考えが脳裏をよぎる。

まさか…。



私を追い詰めてる腕とは反対の腕に持ってる煙草

徹の好きな銘柄。

それと同時にシトラスの香りが鼻をつく。


煙草の香りもシトラスも

徹を思い出せる香りだから好きだったけど

今はただ恐い。


「本当に鈍いですね、陽子さん」




思い出した。

以前、浩一と喧嘩した夜、徹に
“近々、会ってもらえますか?”とメールをした。

次の日、職場からの帰り道で徹が私を待っててくれた。

あの時、何で私の帰路を知ってたんだろうと疑問に思ってた。



どうして、あの時気づかなかったんだろう。

徹の言う通り、普通に考えたらわかった事なのに。



「ずっと…、私を尾けてたの…?」




「陽子さんの事はずっと前からチェックしてたんですよ?
結婚指輪をハメてるんで人妻かなぁとは思ってました。
でも、陽子さんが倒れた時旦那さんの名前を呼んでたのはショックでしたよー。
いくら朦朧としてたとは言え、救急車を呼んだのは俺なのに」





狂ってる…!

マトモじゃない!





ドンッ!!

「いっ、てぇー…」

力任せに徹を突き飛ばした。


意表を突かれたのか徹は避ける事なくベッドの下に転がり落ちてしまい

落ちた拍子に腰を強く打ち付けたらしくベッドの下でうずくまっていた。



…この隙に逃げなきゃ!

私の中の本能が警告音を鳴らす。
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