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濡れて堕ちて……
第9章 悪夢
エレベーターを使うという事は、ここは1階じゃない。

前は気を使うからって1階の角部屋に住んでたのに。

ここは何階なんだろう?

エレベーターに乗り扉が閉まった瞬間に停止してる階を確認すると



12階。



高層マンションじゃん。

扉が閉まった瞬間、空気が重くなった。



お願い、誰も乗って来ないで。

こんな姿、誰にも見られなくない。



エレベーターは、10階、7階、2階と

誰も乗せる事なく停まる事なく下って行く。




お願い…

お願い…





チン…「着きましたよ」

徹の言う通り誰にも会うことはなかった。

誰かが乗って来る事もなく、無事に1階の駐車場に着いた。

扉が開けば、そこは既に駐車場で

徹は私の鎖を引き先へ先へと進んで行く。


ジャラジャラと鎖の音とコツコツと2人の足音が響く。


私の心配も不安も、徹はお構いなしで

本当に犬の散歩を楽しんでるようだった。



「待っ、て。徹──────」

駐車場の1番奥に徹の車が見えた。

見慣れた車、白のセダン。

いつも助手席に乗せてもらってた車。



車に乗るって事は、そんなに遠い所に散歩に行くの?

それともただのドライブ?


ドライブなら安心だ。

車内なら誰かに会うような事はないし

こんな年甲斐もない趣味でもない服を着させられて

確かに外の空気は新鮮で心地よかったけど

こんな状態じゃ安心して外を歩けない。



車内に乗り込むと

懐かしいシトラスの香りが広がってる。


この香りを嗅げば

あの日の優しい徹との思い出が蘇るのに

今の徹は──────…
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