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濡れて堕ちて……
第11章 泡沫
徹と夫婦になった訳じゃない。

入籍した訳じゃないけど、まるで夫婦のような暮らしだ。


浩一とは終わってしまったのだから、徹が私とのあの映像をどうしようがもう関係ない。

どこへでも好きな所へ逃げてしまえるけれど


私が逃げたかったのは浩一の腕の中だ。

けれど、それはもう一生叶わない。


だったら、どこで誰と生きようがもうどうでもよかった。

今、こうして徹と夫婦みたいに食事してるけれど、徹だって気づいてるはずだ。



私が以前のように笑わなくなったのを…。




浩一を失う事以外に怖いものなんてなかったのだ。






「あ、そうだ。陽子さん、これ」

食事中のテーブルの上に、徹が差し出したものは━━━━━━

「何、これ……?」

「陽子さんの指輪です」


テーブルの上に置かれたのは、ブルーの小さなジュエリーボックス。

既に解放されていたそこには確かに指輪が入っていたが



私の指輪じゃない。


「陽子さんの指輪」って言ってるから以前徹に取られた私の指輪かと思ったけど

浩一がくれた指輪じゃない。


浩一との結婚指輪じゃないけど、それよりグッと高価そうな

ピンクダイヤをあしらった指輪。




「何の冗談?私の指輪はこれじゃないわよ」

「陽子さんのものになるんですよ」


よく見ると…

ただのプレゼントの指輪にしては高価過ぎるようなデザインだけど。






まさか…?





「俺達、もう夫婦みたいな暮らしなんだし今更って感じですけど」


やっぱりプロポーズか。

じゃあこれは婚約指輪ってとこか。











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