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濡れて堕ちて……
第11章 泡沫

早いものであれから10日経った。


浩一が私の元を去ってから…。


浩一を裏切り続けたのは私なのに、自業自得なのに


今でも思い出すのは浩一との日々。





幸せだったあの日々、夢に見ない日はない。

幸せな気分に浸っていると、まるで頭上に分厚い雲でもあるかのように暗雲が立ち込める。

そして、浩一のあの傷ついた顔とドアの閉まる音が聞こえて

叫びそうになって目が覚める。


もう戻れないと思い知らされる。





「ところで陽子さん、俺明日から残業が続きそうなんです」

「え?」

食事を終え食器を片付ける私に徹が話しかけて来た。

食器を流し台に運ぶ私の後ろに付いてキッチンにまでやって来た。

「今、新しいお菓子の制作中なんです。次のターゲットはご年配の女性なんで和菓子風にしようかとか、いろいろ会議があって」


食器を流し台に浸し、スポンジと洗剤を握る私の後ろで

コーヒーメーカーにコーヒー豆を入れてる。


徹の仕事というか、日課だ。

食事の後のコーヒー係。


「スナック菓子に和菓子風なんて合わないでしょ?チョコやバニラならまだしも…。クッキーやお煎餅に餡子でも乗せる気?」

「うぇ~。考えただけで気持ち悪いかも…」



浩一とだったら楽しい会話だっただろうなぁ。


一緒に生活してるとは言え、相手の顔すら見ずに会話するなんて普通じゃないと思うけど。


この人はこれを幸せだと呼べるのだろうか?
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