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濡れて堕ちて……
第11章 泡沫
勘の鋭い徹を欺こうとすればするほど不自然になる。

徹の言葉を聞くだけで挙動不審になる。

こんなんじゃいつかバレてしまう。


「そんなに面白いですか?その番組」


プッシュと炭酸の弾ける音が背後から聞こえた。


徹が缶ビールのプルタブを開けたのだ。

私の…、ソファのすぐ後ろでテレビ番組を覗くように。

普段バラエティー番組なんかに熱中しない私が食い入るように見入ってるから気になったのだろう。


「…まぁまぁ、かな」

「あ!俺このグラビアアイドル、めちゃくちゃタイプなんですよ」


私のすぐ後ろから声がする。


すぐ後ろに徹がいる。



お願い、何も気づかないで。


「でも、陽子さんの方がタイプですけどね」


どうでもいいから、私の不審さに気づく前に消えてよ。



緊張感と恐怖で心臓がバクバクして痛い。

少し寒いくらいに冷房も効かせてるのに変な汗まで滲んでる。

早くキッチンのテーブルに戻ってよ!



早く…


早くっ!






…チンッ

「あ、焼き魚の出来上がり~♪」



聞こえて来たのは電子レンジの、温め完了の音。


その音が聞こえた瞬間、すぐ後ろに感じてた徹の気配が消えた。


上機嫌でキッチンへ戻ったのだ。



ホッ、何もバレずに済んだ。


「あー、魚なんて久しぶりです!」



徹は嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。



よっぽどお腹が空いてたんだろう、あんなに電子レンジの音に敏感なんて。

今日ほど、電子レンジの音に感謝した事はない。

隠し事を見つけたその日だけは、誰でもこんな不安になるもんだろう。

徹は電子レンジからいそいそと魚を取り出しビール片手に何やら嬉しそう。

徹と浮気したその日もドキドキしながら浩一に嘘をついたっけ。

浩一は徹と違って鈍感だからここまで緊張しなかったけど。

まぁ、さすがの徹も私の顔も目も見てない今、私が嘘をついてるなんて見抜けな━━━━━━━







「………陽子さん、今日本当に外出してないんですか?」















「え……?」










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